大判例

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仙台高等裁判所 平成2年(う)72号 判決

所論は,要するに,刑法159条所定の権利・義務に関する文書は,私人間の特定の権利・法律関係等の存否につき,法律上当然に影響力を及ぼすものでなければならず,本件届出書のように,これらに間接的,かつ,事実上影響を与える可能性があるに過ぎないものを含むと解すべきではなく,また,法律行為的行政行為の出願については,権利の発生・変更・消滅を目的とする形成的行為を求める文書に限られるべく,国民の自由の制限,又は,これの解除に関する行為である命令的行為を求める文書は含まれない,というのである。

そこで検討するに,刑法159条1項所定の,権利・義務に関する文書とは,これを刑法的保護の対象とした趣旨からすれば,その内容が公法上の権利関係であると私法上のそれであるとにかかわらず,また,財産上の権利関係に限定されるものでもないことのほか,さらに,直接法律的にある権利・義務を発生・変更・消滅させる効力を持つものでなくとも,事実上権利・義務に変動を与える可能性を有する文書であれば,これに該当すると解するのが相当であり,所論のようにこれを特定の個人の権利・法律関係等の存否につき,法律上当然に影響力を及ぼすものと限定的に解さなければならない理由はない。このことは,同条が権利・義務に関する文書のみならず,事実証明に関する文書をも並列規定していることとの権衡上からも窺い知ることができ,右のように解することが構成要件の定型性を損なうものとも思われない。

これを本件の届出書について見ると,国土法(国土利用計画法)に基づく土地売買等の契約の届出は,事前に当事者の氏名,土地の所在,面積,権利の種別,予定対価,利用目的等を記載のうえ,当事者双方の共同申請の形で当該土地が所在する市町村の長経由で都道府県知事に提出して届け出るものとされ,この届出に対して知事は,同法24条1項1号ないし3号に規定する事由に該当し,当該土地を含む周辺地域の適正かつ合理的な土地利用をはかるために著しい支障があると認めたときには,土地売買等の契約の締結を中止すべきこと,その他届出事項にかかる必要な措置を講ずべきことの勧告をすることができ,しかも,勧告を受けた者に対して事後措置の報告を求めることができ,右の勧告をする必要のないときは不勧告の通知を要するものとされ,右届出をしないで土地売買等の契約を締結した場合には罰則の適用があり,その目的とするところは,地価高騰を招く土地取引の規制に関する措置その他土地利用を調整するための措置を講ずることにより総合的かつ計画的な国土の利用を図ることにあるとされる。しかるところ,原判決挙示の関係各証拠によれば,…中略…,届出自体は,法律的には直接私人間の土地売買等の契約締結の効果を変動させるものではないにしても,譲受人にとっては,届け出された売買等予定価格や土地の利用目的は,契約中止等の勧告により売買予定価格等の変更等を求められる場合には,届出の売買予定価格が都道府県が当該土地の取引価格の上限とするいわゆる適正価格を越えるなど,これによる契約締結が困難となるとともに,そのことから適正価格や利用目的の相当性を推量する手掛かりを得ることができ,また不勧告通知を受ける場合には届出の売買予定価格や利用目的を内容とする売買が許可されたのと同じ結果が得られ,届出の価格等での売買交渉が可能となるなど土地買収を進める上で大いに利するものがある一方,譲渡人とされる土地所有者にとっては,売渡の意思すらない者が譲渡予定者として届出名義人とされたうえ,不勧告通知によってその所有地の取引限度価格が届出書記載の売買予定価格をもって事実上制約されることとなることを意味する。…中略…。したがって,本件届出の性質が所論指摘のとおり命令的行政行為の出願であって,自由の制限の解除を求めるものであるにせよ,これが土地売買等の契約締結に深い関わりを有し,事実上これに変動を与える可能性の少なからぬものがあることは明らかであり,したがって,かかる文書をもって,刑法159条所定の権利・義務に関する文書に該当すると解した原判決の判断は相当である。

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